はじめに
中国・蘇州に、パーソナライズ製品のものづくりを静かに革新しているチームがあります。彼らが作っているのは、流行りのファストファッションでも、大量生産向けの製品でもありません。それでも、世界中のコスプレファンの間で厚い支持を集めています。
その名はKIGLAND。2Dキャラ風のヘッドマスク「KIGURUMI」を手がけるスタジオです。これらのマスクは一つひとつがオーダーメイドで、細かな調整と職人技が欠かせません。まさに「少量・多品種」の代表例ともいえる製品です。
一見すると、ニッチな職人集団のように見えるかもしれません。
でも実際は、エンタメ製品を扱う柔軟な小規模工場のような存在。デジタル生産、標準化された業務フロー、そしてAIを活用したサプライチェーンの工夫を組み合わせることで、ハンドメイドの作品をまるで工業製品のような精度で安定的に生み出しています。
GitHub IssuesからLark Baseへ
KIGLANDが立ち上がった当初は、まさに“ハッカー文化”そのもの。
- 顧客の注文はGitHub Issuesで管理
- 製造の進捗はLark Baseで更新
- フィードバックやコミュニケーションはコメント、スクショ、チャットに分散
当時の注文管理フロー(GitHub Issues)
Lark Baseを使った進捗管理の様子
「最初はそれで何とか回っていたんです。でも注文が増えてきたら、すぐに限界が見えました。」
これは、副業レベルのプロジェクトから本格的な運営へと成長していった人なら誰もが直面する問題でしょう。
- 機能の限界:GitHubのIssueリストでは、項目数や工程ごとの情報に柔軟に対応できなくなった
- 管理の死角:コメントやディスカッションが散在し、情報が見つけづらい
- 協働のしにくさ:GitHubの開発者向けツールに、非エンジニアのメンバーがなかなか馴染めなかった。加えて、スプレッドシート型の管理では権限設定もどんどん複雑に。
やがてコミュニケーションの負担は急激に増大。KIGLANDはつぎはぎ運用から脱却し、自分たちのものづくりにフィットする“本物のシステム”を探し始めることにしました。
本当に“自分たちのためのシステム”を求めて
オープンソースに精通し、高い技術力を持つKIGLANDの創業メンバーが探していたのは、よくある機能てんこ盛りのSaaSではありませんでした。彼らが欲しかったのは、「ビジネスをツールに合わせる」のではなく、「ツールを自分たちのビジネスに合わせて変えられる」柔軟な仕組み。
「僕たちが求めていたのは、成長に寄り添ってくれるツール。あれこれ無理やり工夫しないと使えないような、硬直したプラットフォームじゃないんです。」
そこで彼らは、Airtableのような従来型ツールに代わる選択肢を模索。いくつかの製品を試した末に、最終的に選んだのがNocoBaseでした。
選んだ理由は、どれもKIGLANDにとって欠かせない要素ばかり:
- 複雑なオーダー管理に対応できる柔軟なデータモデリング
- 機能を自由に拡張できる、プラグイン式の設計とオープンAPI
- 非エンジニアでもすぐに使える、直感的で扱いやすいUI
- 活発に動いている、スピード感あるオープンソースコミュニティ
- そして何より、自分たちでホスティングでき、完全に自由にコントロールできるオープンな構造
NocoBaseは、彼らの「自分たちで育てていける仕組み」という理想にぴったりフィットしていたのです。
3週間で完成、理想の業務管理システム
KIGLANDはわずか3週間で、自社業務にぴったりフィットした社内管理システムをNocoBase上で構築しました。業務フローに合わせてゼロから作り上げたこのシステムには、一切の妥協がありません。
構築されたシステムの主な機能は以下の通り:
- 注文受付からデザイン、製造、品質チェック、出荷までを一元管理できる「注文ライフサイクル管理」
- 営業・デザイン・製造それぞれに役割を割り当て、引き継ぎや責任の所在が明確になる「マルチロール対応」
- 各作業の履歴が自動で記録され、問題発生時もすぐに原因をたどれる「ログベースのトレーサビリティ」
- 材料や在庫の種類を自由にカスタマイズでき、関連情報もリアルタイムで確認できる「柔軟な資材・在庫管理」
NocoBaseで管理された注文リスト:
各注文の詳細と製造工程:
作業履歴とトレース機能:
ログを特定の注文と紐づける仕組み:
基盤となるシステムが稼働した後も、KIGLANDのチームはNocoBaseのアップデートにあわせて自社システムを進化させ続けています。新機能を柔軟に取り入れながら、ユーザーとしてのフィードバックもコミュニティに積極的に還元しています。
導入からわずか9か月、数字が進化を物語る
「NocoBaseを使い始めてから、右往左往していた小さなスタジオが、今ではニッチ業界のトップチームと呼ばれるようになりました」
その変化は数字にも表れています:
- 📦 注文処理能力が3倍に
- ❌ チーム間連携によるミスが80%減少
- 😊 顧客満足度が大幅アップ
- 🔧 技術チームが自走できるようになり、社内で継続的な改善が可能に
そして何より大きかったのは、チームが日々の業務に追われるだけの状態から脱し、ビジネスの成長やユーザー体験の向上に集中できるようになったことです。
顧客からも、嬉しい声が次々に届いています。
システムのその先へ
NocoBaseをベースに、KIGLANDは今も内製システムを進化させ続けています。目指すのは、完全に自動化され、自分たちのために最適化された製造ラインの構築です。
現在進行中の構想には、こんな取り組みが含まれています:
- 自社ホストのLLMとモジュール制御基盤(MCP)を活用したAIスケジューリング
- 過去の注文データから需要を予測し、リアルタイムで仕入れ先に指示を出す仕組み
- 顧客側の注文も直接連携できる、標準化されたカスタムフローの実現
KIGLANDにとって、これは単なる“便利なツール導入”ではありません。
「どうスケールするか」という考え方そのもののシフトなのです。
「パーソナライズ製造の時代では、“システム化”はもはや贅沢じゃありません。むしろ成長の前提条件です」
—KIGLAND 共同創業者 Remi
おわりに
KIGLANDの事例が教えてくれるのは、とてもシンプルなこと。
ビジネスが複雑になればなるほど、それを支える“仕組み”が必要になる。
そして、スケールを目指すなら、人の手だけでは限界がある。
KIGLANDが選んだのは、最初から完成された製品ではありませんでした。
自分たちで形づくり、進化させ、ビジネスと共に育てていける柔軟な基盤——それがNocoBaseでした。
もしあなたのチームがデジタル変革の真っ只中にいるのなら、
突破口は「全部入りの理想的なプラットフォーム」ではなく、
“共に育つ”仕組みを持つことかもしれません。